2019年5月22日

遺産分割前における預貯金の払戻し制度の創設に関する民法改正

 昨年、民法の一部を改正する法律案が可決され、相続法の分野においては、約40年ぶりにその規定が見直されることとなりました。
 その中でも、今年7月1日に施行予定の「遺産分割前における預貯金の払戻し制度の創設」について、ご紹介いたします。
 この制度の創設により預貯金が遺産分割の対象となる場合に、各相続人は、遺産分割前でも一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになります。
 預金者が亡くなった事実を金融機関が知った時点で、その口座は凍結され預貯金の入出金ができなくなります。改正前の民法では、判例(最大決平28年12月19日)により、預貯金は遺産分割の対象に含まれ、遺産分割までの間は各共同相続人に準共有されるものと解されていたことから、相続人が単独でこの預貯金の払戻しを求めることはできませんでした。
 しかしながら、被相続人の葬儀費用の支払いや相続債務の弁済、また相続人の生活費などの資金需要がある場合も多く、このような場合にも共同相続人間で遺産分割が終了するまでの間は預貯金の払戻しができないままでは、あまりにも不便であるため、他の共同相続人の利益を害することがないと認められる限度では、相続人単独での預貯金債権の行使が認められるよう、本制度が創設されることとなりました。
 本制度は「預貯金債権の一定割合については、家庭裁判所の判断を経なくても、金融機関の窓口において支払いを受けられるようになる」というものです。「一定割合」とは「相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×1/3×当該払戻しを行う共同相続人の法定相続分」をいいます。例えば相続人が被相続人の子2名の場合で、A銀行の普通預金口座の預金額が600万円とすると、子1人当たりが払戻しを受けることのできる額は、金融機関1つにつき「600万円×1/3×1/2=100万円」ということになります。(ただし、1つの金融機関から払戻しが受けられる上限額が法務省令で規定され、その額は150万円です。)
 もう1つ、今回の民法改正に伴い、家事事件手続法の「預貯金債権を仮に取得するための保全処分(仮分割の仮処分)」についても要件が緩和されることになります。この仮払いの保全処分は「急迫の危険を防止するため必要があるとき」にのみ認められていましたが、この要件が「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるとき」に緩和されることとなりました。ただし、要件が緩和されるといっても家庭裁判所に遺産分割の審判または調停を申し立てたうえで、預貯金の仮分割の仮処分を申し立てることになりますので、先に述べた、金融機関の窓口において直接払戻し請求を行う方が、使い勝手は良いと考えられますが、上限額が定められているため、必要な金額によって、預貯金の払い戻し制度と仮分割の仮処分のどちらかを選択することとなります。

民法 第909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。



                                執筆者 司法書士 城ヶ﨑理絵





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