2020年8月7日

遺言による配偶者居住権の取得について

 本稿では、民法の改正により令和2年4月1日に施行された配偶者居住権について、特に、遺言によって配偶者居住権を取得する際の留意点についてご紹介いたします。

 今回の改正により創設された配偶者居住権は、「配偶者短期居住権」、「配偶者居住権」の2種類があり、相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた被相続人の配偶者(以下「生存配偶者」とする。)の居住地を確保するために創設されました。 
 生存配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合、被相続人の死亡後も住み慣れた建物に居住するのが通常であり、退去を余儀なくされると肉体的にも精神的にも過大な負担となります。そのため、改正法では、生存配偶者の居住権を保護するため、一定の要件を満たせば被相続人の死亡後も引き続き無償で建物に居住することができる配偶者居住権が創設されました。
 
 配偶者居住権は、相続開始時に生存配偶者が被相続人所有の建物に居住していれば、遺産分割又は遺言による遺贈、死因贈与契約によって取得することができます。この点、遺言によって配偶者居住権を取得する場合、「配偶者居住権を相続させる」旨の遺言は、原則として認められておりませんので注意が必要です。
 「特定の財産を相続させる」旨の遺言を「特定財産承継遺言」と言いますが(民法第1014条第2項)、立法担当者によると,遺言による配偶者居住権の取得は,「遺贈」によることを要し,特定財産承継遺言によることはできないと解説されています。その理由として、特定財産承継遺言による場合、生存配偶者が、相続財産のうち配偶者居住権の取得を希望しない場合に、配偶者居住権のみを個別に放棄することができず、全て相続放棄をするほかないため、かえって生存配偶者の利益を害するおそれがあると解説されています。
 
 一方で、同解説において「相続させる旨の遺言により、遺産の全部を対象として各遺産の帰属が決められ、その中で、配偶者に配偶者居住権を相続させる旨が記載されていた場合でも、配偶者居住権に関する部分については、遺贈の趣旨であると解するのが遺言者の合理的意思に合致するものと考えられる。」とし、配偶者居住権の取得に関する部分については、遺贈と解釈可能であるとの見解を示しておりますが、この解釈による運用が行われるかどうかは、実務の蓄積を待たねばなりません。
 遺言による配偶者居住権の取得ついては上記の点に注意いただき、ご不明な点は専門家に相談いただければ幸いです。
 
 本稿では、遺言による配偶者居住権の留意点をご案内させていただきましたが、配偶者居住権全体の内容については、以下のコラムをご参照ください。

配偶者居住権の創設に関する民法改正)



                                執筆者 司法書士 田中政幸





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